父から私への二つの言葉
父はあまり細かいことをうるさく言う人ではなかった。
そんな父より、電話がかかってきた。
私が明日から社会人になるという前夜だった。
「お前に一つだけ言っておきたいことがある。
明日からお前は社会人となる。
お前はこれから様々な人と出会い、
たくさんのことを経験するだろう。
楽しいことやうれしいこともあろう。
恋をして、愛する人もできるだろう。
しかし、つらく苦しいこともあるだろう。
悔しい思いをし、挫折することもあるだろう。
そんな時、本はきっとお前の助けになってくれるだろう。
小説には色々な主人公や登場人物が出てくる。
お前はそれを読むことによって
様々な人生を体験することができる。
その主人公と一緒に考えてほしい。
一緒に喜び、一緒に悲しんでほしい。
そうすることによって感性を磨き、
豊かな感受性を身につけてほしい。
仕事がどんなに忙しかろうが、本は必ず読め。
本はお前の血となり肉となってくれるだろう。
本はいいぞ!」
その時、私は正直に言うと父の言葉を
右から左に聞き流していた。
しかし、それから10年、20年、30年が経ち、
父のこの言葉がたびたび身にしみた。
実際、仕事で壁にぶち当たりスランプに陥ったときや
苦しく悩んだとき等は、幾度となく小説の主人公の
生き様に助けられた。
私は父の言葉の意味がようやく分かり、父に感謝した。
そんな父は、今から7年前に他界した。
そう言えば、父が亡くなる間際の私への最後の言葉は、
「お前がセミナーの講師をしている姿が目に浮かぶ」だった。
その時は、父は何をとぼけたことを
言っているのだと思ったものだ。
というのも、私は今と違い、当時はセミナーの講師なんて
一度もしたことがなかったし、まったく別の仕事に就いていた。
しかし、それから約4年後、
本当に私はセミナーの講師として人の前に立っていた。
そして今、本を読むことの大切さを若い人達に伝えている。
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