父から私への二つの言葉

プリケ

2008年09月11日 22:20

父はあまり細かいことをうるさく言う人ではなかった。

そんな父より、電話がかかってきた。

私が明日から社会人になるという前夜だった。

「お前に一つだけ言っておきたいことがある。

明日からお前は社会人となる。

お前はこれから様々な人と出会い、

たくさんのことを経験するだろう。

楽しいことやうれしいこともあろう。

恋をして、愛する人もできるだろう。

しかし、つらく苦しいこともあるだろう。

悔しい思いをし、挫折することもあるだろう。

そんな時、本はきっとお前の助けになってくれるだろう。

小説には色々な主人公や登場人物が出てくる。

お前はそれを読むことによって

様々な人生を体験することができる。

その主人公と一緒に考えてほしい。

一緒に喜び、一緒に悲しんでほしい。

そうすることによって感性を磨き、

豊かな感受性を身につけてほしい。

仕事がどんなに忙しかろうが、本は必ず読め

本はお前の血となり肉となってくれるだろう。

本はいいぞ!」



その時、私は正直に言うと父の言葉を

右から左に聞き流していた。

しかし、それから10年、20年、30年が経ち、

父のこの言葉がたびたび身にしみた。

実際、仕事で壁にぶち当たりスランプに陥ったときや

苦しく悩んだとき等は、幾度となく小説の主人公の

生き様に助けられた。

私は父の言葉の意味がようやく分かり、父に感謝した。



そんな父は、今から7年前に他界した。

そう言えば、父が亡くなる間際の私への最後の言葉は、

お前がセミナーの講師をしている姿が目に浮かぶ」だった。

その時は、父は何をとぼけたことを

言っているのだと思ったものだ。

というのも、私は今と違い、当時はセミナーの講師なんて

一度もしたことがなかったし、まったく別の仕事に就いていた。

しかし、それから約4年後、

本当に私はセミナーの講師として人の前に立っていた。

そして今、本を読むことの大切さを若い人達に伝えている。


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